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薔薇の羽毛を携えた優美な瑠璃色の尾。
微かにバルサムの樹液が薫る大翼には鮮烈な深紅のルビィがちりばめられている。
そして見る者を切り裂いてしまうほど鋭い輝きを放つ翡翠の瞳。
その姿態はヘリオポリスの聖なる鳥、太陽神アラーの象徴たる不死鳥だ。
死に至っては後、再生を繰り返す猛禽鳥の背上に乗った私は悠然と空の旅を堪能している。
境界のない紺碧の海と空。
体は濃密な闇と溶け合い、私は心地の良い眩暈に酔い痴れる。
蒼穹を舞う不死鳥は緩やかな螺旋を描きながら、やがて雲海を突き抜けて昇天を続ける。
その天の遥か真上にある、神の棲家を目指して‥。
灼熱の太陽が容赦なく照り付ける炎天下で、私の意識は少しずつ朦朧とし始め、日射病のような症状を自覚する。
ジリジリと焼け焦がされる肌。
喉が渇いて、頭が酷く痛み始めていた。
「お願い。引き返して。私を連れて行かないで。熱い‥」
私は不死鳥の頸を覆う冠毛にしがみついて必死で叫ぶ。
だが、その声にならない叫びが彼の耳に届くわけもない。
そのまま燃え盛る赤炎のプロミネンスに潜り込み、太陽の中枢へと一気に突き進んだ。
焼ける。‥もう限界。
私は力尽き、そのげ出されて、地の方に向かって急降下を始める。
地面が間近に迫る。
きっとこのまま死ぬんだ。
私は堅く瞼を閉じて覚悟を決め、この身が地に打ち付けられて粉々に砕ける最期の瞬間を待った。
もはや地面がすぐ間近に迫った瞬間、体がびくりと痙攣を起こして目が覚める。
どんなに怖い夢を見ても、いつもなら「夢だ」という認識があるが、今日は違っていた。
その証拠にとてつもなく鼓動が速い。
横になったまま枕元の時計に手を伸ばして時刻を見ると、さっきからまだ一時間と少ししか経っていない。
果てしなく憂鬱で長い夜。
高熱のせいか眠りは浅く、繰り返し悪夢にうなされて、いつでも意識を側に感じている。
汗で濡れたTシャツが堪らなく不快だったが、体の節々が痛むから着替える気力も起きない。
これは自業自得だ。
微熱、悪寒、関節痛、数日前から風邪の諸症状を感じていた。
それなのに私は、体の異変に気付かない振りをして、普段通りに仕事へ行き、ろくな食事も摂らず、酒を控えることすらしなかった。
その結果がこれ。
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