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Oncidium+オンシジューム+
光が煌めき、燦々と降り注ぐ。
樹の芽吹きに、大気は酸素で満たされる。
五月の初旬、満開に咲き誇る桜の枝花は天空を塞いで、淡いピンクの花びらが、渡る風に舞い散り降りる。
大通りの並木沿いに停めたスターレットの車内から、フロントガラスに積もる花びらを眺めていた。
夜遊びの疲労が頂点に達していて無気力な私の横、助手席では友達の璃慧が放心した様子で煙草をふかしている。
クラブでオールし明けたこの感覚を言葉で表現するのは難しい。脳は重低音の余韻を残して興奮が醒めないのに、既に思考は機能していない。
昆虫の抜け殻?いや脱皮した直後の昆虫か。
体力が消耗して限界の状態。もはや瀕死。
閉店た店内から外に出た瞬間、陽光の矢が容赦なく、闇に慣れた瞳孔を貫く。瞼の奥を針でちくちく刺されるような痛みは拷問に近い。
換気の悪い店内に長時間いたせいか、あるいは爆音の中で声を張り上げて喋っていたせいで、妙にしゃがれたハスキーボイスになっている。できることなら声帯を休ませるために、あと24時間は口を開きたくない。
車の天井しか見えないぐらい大きく倒したシートに肘を付いて半身を起こし、公園の敷地内を広く見渡してみる。
葉脈を陽に満たして光合成をするナナカマドの枝が、まだひとつの蕾を持たないライラックの葉が、穏やかな涼風にさわさわと揺れ、花壇を彩るビビッドな赤や黄の花々に乱反射する木漏れ日が、幻想的な光のグラデーションを作り出している。
ダルメシアンを散歩させている初老の男性、ウォーキングをするジャージ姿の主婦、園内にいる人たちを嫌味なほどに清々しく感じるのは、どこか私が卑屈になっているせい。
推薦で短大に入ったまでは良かったが、朝が辛くて学校へはあまり行っていない。
堕落の一途を転落した蝙蝠のような昼夜逆転の悪循環。
日没と同時にベッドから這い出して、夜はひらすら遊び通し、太陽が昇ると同時に帰宅して、カーテンを締め切った暗い部屋で眠りに就く。
そんな最悪の生活習慣が当たり前になっている。
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