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「花見だよ。混ざる?」
そう笑顔で誘いをかける男は佑貴と名乗った。
朝陽に透けるミルクティー色の、少し長めの前髪から覗く大きな瞳は、常に笑みをたたえているようで軽薄な印象を受ける。荒れのない艶やかな肌、シャープな顎のライン、きれいめな服装や背の高さ、どれをとっても女に不自由しそうには見えない。こうしていきなり乱入されても、戸惑いの様子ひとつ見せないのだから、慣れているのは間違ないないだろう。
「いつからいるの?夜中から?」
「三時ぐらいかな。こいつ、窓から勝手に入ってきて起こすんだもん」
佑貴が指す一方のこいつは、一瞬だけこちらに視線を向けたが、特に目を合わせるでもなく「どうも」と呟くように挨拶をすると、もう一切の関心を示さずに、どこか遠くを見ながらビールを飲んでいる。
別に歓迎されなくても構わないが、そうあからさまな態度を取るぐらいなら、適当にあしらって追い返すなり、「消えてくれ」とはっきり言われたほうが、よっぽど立ち去るきっかけになる。
不快感を露に彼を見た、‥瞬間、たまたまそいつと視線がぶつかり、私の心は揺れる。
彼がすごくきれいだったから。
それは「美しさ」とは別の、何にも染められていない無垢で清潔なオーラ。
透き通るような白い肌に、細い鼻梁、長い睫毛に縁取られた漆黒の瞳に怜悧に輝いて。
彼、シュウにはどこか少年の儚い不安定さを残している。
ゆったりとした白無地のパーカーとジーンズが、かなりの布を余すほど細身の体。
シルバーの指輪をはめた男の人とは思えないほど繊細な指先。
‥なんだろう。この心のザワザワする感じ。
シュウは私のまわりにいる他の誰とも違う。
この人をもっと知りたい。
この人ともっと関わりたい。
でも私たちは彼にとって招かれざる存在なのだ。
「リエ、帰ろう」
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