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日溜まりのロッキングチェア
いつも。
ゆらゆらと揺れていた窓際のロッキングチェア。
一定に音を刻むそれに、いつのまにか安堵していた僕がいた。
僕は、いつも小さな後ろ姿を眺めていた。
丸まった背中がとても小さく見える。
時折、僕の名を呼んで招き寄せ、温かい小さな手が僕の頭を撫でるのがすきだった。
その手は不思議な力があるのか、撫でられると僕はいつも幸せな気持ちになる。
「なでられるととってもしあわせなきもちになるんだ。どうしてかな~?」
ある時、僕は聞いてみた。
もしかしたら、魔法の手なのかもしれない。
きらきら瞳(め)を輝かせる僕を見て、ゆっくりと顔を崩し
「・・・・・どうしてだろうね。」
そう言って笑ったその顔は皺だらけだった。
それから、僕はよく会いに行くようになった。
会いに行くたび、いつも優しく撫でてくれた。
「あのね、きょうは・・・」
膝の上に軽く座って外を見ながら1日あったことを話すのが僕の日課。
話したら嬉しそうに笑ってくれるから。
だから、僕はたくさんお話してあげるんだ。
僕はそれが嬉しくて嬉しくて毎日会いに行った。
だけど、いなかったんだ。
ドアを開けると、優しい笑顔で迎えてくれるはずの人が。
残っていたのは、日の光を浴びたロッキングチェアと、いつも聞いていた一定の音。
さっきまで誰かが座っていたのか、ただ、ゆっくりと揺れていた。
静寂の中で、ギィ・・・ギィ・・・と音を立てるその様は淋しげで、今にも止まってしまいそうだった
。
どこに行ったんだろう。
辺りを見渡してみても、誰もいない。
今日はいないのかな、と少し残念に思った。
大好きな優しい手。
白くなった髪の隙間から見える瞳はどこまでも優しさで満ちていた。
笑った時の、くしゃっとなる顔は皺だらけなのにどこか可愛くて。
「・・・また、明日くるね。」
そう言って部屋を出た。
あの手に、あの瞳にまた会いにこよう。
小さな足音を立てて部屋を駆け出した。
閉じられる扉。
誰もいなくなった部屋はひんやりと冷えていて
音を立てていたソレは徐々に不規則になり、小さくなっていく。
まるで、別れを告げるかのように
静かに・・・・ゆっくりとその音(ね)を止めた。
END
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