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旦那の両手に包帯を巻きながら、その顔を見やる。
目は開いている。
でも焦点が合っていない上に、虚ろな目をしていた。
「…何があったか知らないけど、無茶したって旦那の得にはならないんだよ?」
「分かっておる…」
「稽古は戦じゃないんだから、そこまで消耗してちゃあ寿命が縮むぜ」
「分かっておる…」
「……旦那?」
「分かっておる…」
譫言のようだった。旦那の赤い鉢巻を取って、額の汗を冷水で拭いてやる。
「……安心して、旦那」
自分でも驚くほど、優しい言葉が出た。
他人をこんな風に介抱したことはなかったけど、何だか心配で旦那を放っておけなかった。
「…俺が朝まで側にいるから……寝ないから…」
「……ぅ……え…」
旦那が力無く何かを呟いた。
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