嵐の前の静けさ

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「旦那、ずっと思ってたんだけどさ」 「何だ?」 「旦那が首に下げてる銭の飾り、何かのまじない?」 旦那は身を起こして、ちゃりんと六枚の銭を鳴らした。 「我が真田の家紋の六文銭は、三途の川の渡し賃と言われておる。物事には死を覚悟して挑め、という意味だ」 「(死……)」 武家らしい由来だ。誰もが、生まれながらに死に向かって歩み始める。 旦那は命の重みを知っているから、出会った頃は人を殺めることはできなかったんだろう。 「…この銭が鳴る度に、死の瞬間が思い浮かぶ。同時に、お館様や、父上や兄上…屋敷の皆の顔が浮かぶのだ」 切ない横顔。若い旦那が背負う物は、あまりにも大きくて、かける言葉が見当たらないけど。
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