初陣

1/6
506人が本棚に入れています
本棚に追加
/189ページ

初陣

「皆のもの、出陣じゃ!」 「おう!」 赤備えを身に纏った武田軍が、戦場を目指し歩を進める。 川中島。 お館様の宿命の好敵手と何度も戦ってきた場所だそうだ。 そして旦那の初陣。 (……………旦那?) 後方の警備をしていた俺様は、木をさくさくと飛び越えて、馬上の旦那のもとへ向かった。 「ちょっとちょっと、鐙から足外れてるよ旦那!」 「あ、そ、そうであるな!」 旦那は慌てて足を鐙に掛けようとするが、震えてなかなか掛からない。 カチャカチャともどかしい音が響く。 「旦那、冷静になって」 「分かっておる…」 「緊張し過ぎだって。ほら、旦那の昂ぶりが手綱を通じて馬にまで伝わってる」 旦那の乗ってる鹿毛の馬が、ビクビクと耳を伏せて怯えていた。
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!