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「ヴェスト!」
バタバタと走るギルベルトを視界の隅にとらえ、ルートヴィヒはなんとも言えない顔をした。
「兄さん…」
家の中で走らないでくれ…と呟きながら頭をかかえるルートヴィヒにお構いなしに、ギルベルトは思いっきり抱き付いた。
「細かいことは気にすんなよ!今日は無礼講だぜ?」
そう言ってケセセッと笑うギルベルトに、ルートヴィヒは頭に疑問符を浮かべた。
「今日……。何か特別なことでもあったのか?」
思い当たる節が無いのか、首をひねるルートヴィヒを見たギルベルトは一気に寂しそうな顔をした。
「お前は…覚えてないのか?」
そう言われてもルートヴィヒには思い当たる節がない。覚えて…と言うことは過去の話だろうか……そう考えて、ルートヴィヒはカレンダーで日付を確認した。
「そうだよな…19年も前の話だもんな……」
そう言って自室へ戻ろうとしたギルベルトの腕を、ルートヴィヒは慌てて掴んだ。
「済まない。今、思い出した」
ギルベルトの目から溢れていた涙を拭ってやりながら済まなさそうにそう言うと、ギルベルトはルートヴィヒに再び抱きついた。
「思い出すのが遅ぇんだよ…!」
そう言って抱き合った二人は、まるであの時のようだった。長い間引き裂かれていた二人が再び一つになったあの日…東西統一の日のように。
「兄さん、今日は二人だけで久々にビールでも飲まないか?」
ルートヴィヒの提案に、ギルベルトは小さく頷くとゆっくりとルートヴィヒから離れた。
「また来年、忘れてやがったら許さねえからな…」
小さく頬を膨らませてそう言うギルベルトを、ルートヴィヒは愛しそうな目で見つめた。その視線がくすぐったくて、ギルベルトは自らルートヴィヒに口付けた。思いを唇に乗せて、愛しい弟へと……。
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