闇の覚醒

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景色のない、ただ闇だけが続く空間で、僕は刀を振り下ろした。 躊躇いも手加減もない一閃。それが彼を斬り裂いた。 霧が晴れたように彼の姿が消えた途端、今度は背後から声が聞こえてくる。 「いつまで逃げるつもりだ?」 振り向き様に刀を振り払えば、再び彼の姿が掻き消える。 「本当は怖いのだろう? 全てを思い出すのが……」 今度の声は、上空。闇の中に彼の姿はない。 「記憶を失うほどの大怪我……。昔のお前は何者だったんだろうな」 「うるさい!」 彼の声を掻き消すほどの大声を出しても、声は容赦なく降り注ぐ。 「ただの学生? ギルド員? 秘密実験のモルモットかもしれないな。犯罪者という可能性もある」 「黙れっ!」 ピタリと、うるさかった彼の声が止む。 ふと、背後に気配を感じた。 再び刀を振るおうと振り向いた僕の動きが止まる。目の前にいたのは彼ではなかった。 漆黒の髪に、見ていると吸い込まれそうになる黒い瞳。少し老けているが、その顔は僕とそっくりだった。 「覇王の使命からは逃れられん。我がいるかぎりな」 「ああああああああああッッ!」 もう、わけがわからない。 僕は咆哮と共に、手にしていた黒龍を投げ付けた。刀に触れた瞬間、彼もまた姿を消す。 だが、すぐに同じ場所に光が集まり始めた。 ――まだ出てくるのか……。 しかし、そこに現れたのは彼ではなく、金髪の女性。 「クラッド……」 彼女の声と微笑みが、やけに印象に残った。  
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