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拍手は止むこともなく、夏の雷雨のように激しい音でホールに響き渡る。人々は立ち上がり、惜しみ無くその称賛をステージの上に贈った。
ピアニスト、瀬名生はるか。彼女はその指先をそっと鍵盤から離すと、立ち上がり、満場のスタンディング・オベーションに微笑みで応えた。
ステージの袖に戻ると、いつもいるはずの母・康子と、ピアノの師であり恋人でもある高崎の姿がない。不審に思っていると、付き人であり妹弟子でもある新人の沢口陽子が、
「何かトラブルらしくって、お二人とも真っ青な顔して楽屋へ戻られました」
と周りのスタッフに聞こえないよう耳打ちしてきた。
(トラブル?)
はるかは得体の知れない不安感に襲われながらも、
「わかったわ。とりあえずアンコールを弾いたら楽屋へ行ってみる」
と陽子に言い残し、再び歓喜の渦の中に戻って行った。
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