居酒屋にて(一)

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 熊谷浩介(くまがいこうすけ)は、日高武(ひだかたける)と居酒屋にいた。 「宝の地図?」  武の話を聞いていた浩介は、いぶかしげに聞き返した。 「そう。ポストに入ってたんだけど」 「子どものいたずらじゃないの」 「そうだよね……君の出る幕はない、か」  大学生のころから、独立すると息巻いていた浩介は、事務所を構えていた。  独立したい理由が『会社勤めがいやだから』だったからか、立ち上げたのは会社ではなく、探偵事務所だった。 「徳川の埋蔵金でもあれば別だけどな」 「そんなに儲からないの?」 「慎ましく生活してるよ」 「そんなものかあ」 「知り合いのつてに頼ってるところが大きいかな。松田俊介ってやつからたまに話が転がりこんでくる。あいつは東京で。埼玉県の事案は俺んとこってわけだ」 「ふうん」  武は、松田が誰かは知らないし興味もなかったが、浩介にはそれなりに人脈があるのだろう、と思った。 「最近また東京に行ったんだぜ」  自慢気に言う浩介に、武は、 「東京に行ったことを自慢すると田舎者だと思われるよ」  と釘を刺した。  浩介は顔をしかめた。 「探偵っていうと名前は格好いいけど、浮気調査とかばっかだ」  と浩介は愚痴をこぼした。それから苦々しい顔で、不味そうにビールを飲んだ。  武もつられるようにしてビールを口に運んだ。  二人は大学生のころ同級生で、卒業してからも、時々こうして呑みに行くのだった。  空になったグラスを見て、武はビールを追加注文した。
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