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熊谷浩介(くまがいこうすけ)は、日高武(ひだかたける)と居酒屋にいた。
「宝の地図?」
武の話を聞いていた浩介は、いぶかしげに聞き返した。
「そう。ポストに入ってたんだけど」
「子どものいたずらじゃないの」
「そうだよね……君の出る幕はない、か」
大学生のころから、独立すると息巻いていた浩介は、事務所を構えていた。
独立したい理由が『会社勤めがいやだから』だったからか、立ち上げたのは会社ではなく、探偵事務所だった。
「徳川の埋蔵金でもあれば別だけどな」
「そんなに儲からないの?」
「慎ましく生活してるよ」
「そんなものかあ」
「知り合いのつてに頼ってるところが大きいかな。松田俊介ってやつからたまに話が転がりこんでくる。あいつは東京で。埼玉県の事案は俺んとこってわけだ」
「ふうん」
武は、松田が誰かは知らないし興味もなかったが、浩介にはそれなりに人脈があるのだろう、と思った。
「最近また東京に行ったんだぜ」
自慢気に言う浩介に、武は、
「東京に行ったことを自慢すると田舎者だと思われるよ」
と釘を刺した。
浩介は顔をしかめた。
「探偵っていうと名前は格好いいけど、浮気調査とかばっかだ」
と浩介は愚痴をこぼした。それから苦々しい顔で、不味そうにビールを飲んだ。
武もつられるようにしてビールを口に運んだ。
二人は大学生のころ同級生で、卒業してからも、時々こうして呑みに行くのだった。
空になったグラスを見て、武はビールを追加注文した。
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