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花が好きだと言っていた。
静かに本を読むのが好きだと言っていた。
あたしが嫌いだと言った、蜘蛛にさえ。彼は優しい。
すごく、綺麗な人―――
「蜘蛛は、害虫を食べてくれる、いい虫なんですよ」
「そうなの?」
「はい。だから、殺しちゃいけないんです」
窓から吹き込む秋風が、佐藤くんの黒い髪を揺らす。
あたし…
あたし……
佐藤くんが、好きだ。
不思議。
そう、認めると。
さっきまで暴れていた心臓は、すっかり凪いで。夜の海のように静まり返った。
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