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紅茶を作り終えると、会議の始まる少し前で、席に着き資料を準備し待った。
役員も座って待機しており、まだ深海専務だけが来ておらず専務待ちだった。
きっと別の仕事が長引いているのだろう。
そう思い資料に目を通していると、不意に会議室の扉が開いた。
入って来たのはやはり深海専務で、その後ろに秘書と思われる男が続いて入って来た。
「すまない、遅くなった!始めようか。」
渋い顔で全体に声を掛けると役員が席を立ち、一礼してからまた席に座る。
こうして会議が始まった。
久しぶりに見た紫炎。
同い年なのに、とても同じ年とは思えない容姿である。
それもそのはず、若いからと言って舐められるのを嫌い、髪はオールバックにし眉間には皺を寄せ、渋い顔を作っている。切れ長の鋭い眼は相変わらずで、全てのものを見透かし捕らえるような力がある。
しかし、芽咲の知っている紫炎は違う。
綺麗な黒髪をなびかせ、その髪から覗かせる切れ長の眼は鋭いが、澄んでいてとても優しい眼差しを向けてくれる。
笑った顔は柔らかく、渋く低い声を出しているが、本当は暖かく耳に残る優しい声なのだ。
無口で無愛想で冷たく冷徹で人を寄せ付けない。クールな感じと周りには思われ、ストイックな感じがカッコいいと女性社員には人気だと芽咲は聞いた。
実際は少しシャイで人見知りが激しくて、心を開いた人にしか笑わないのだ。
芽咲は会議に集中しながらも、久しぶりに見た紫炎に少しドキドキしていた。
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