愛惜

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(どういう事…………?) 芽咲はその二人の会話に耳を傾けた。 「何でも、村岡様のご友人ってのが金融関係らしい。村岡様だけじゃなくその方とも同時に契約を結んだらしいぞ!」 「しかし、いきなりの事だったみたいだが、良くここまでまとめたよな。 本当にあの人は凄いよ! 社長の座も近々交代かもな。」 「あぁ、専務一人でも充分会社を動かしていく力はあるよ!」 こんな話しを聞き、何故急に秋山様の接待も一緒に行ったのか理解する。 (もしかして紫炎、初めから秋山様を商談に引き込むつもりで…) 先程まで傍で見ていた背中が遠い。 そこまで離れていない距離なのに、どんなに走っても追いかけても届かない距離に感じる。 喜ぶ所だ……。 大きな商談が一つ成立して、紫炎の仕事も大きく評価されている。こんなに喜ばしい事はない…。 なのに、 何故だか素直に喜べないでいる。 心の中を虚無感が、空しさが襲う。 どんどん置いていかれるようで、あんなに近くにいたのに、手を伸ばせば届きそうなのに……………全く届かない。まざまざと現実を突き付けられる。 (やっぱり、手の届かない人…) 芽咲の目に暗い影が落ちる。分かっていた事だ。 なのに、最近距離が近過ぎていた為に、忘れていたのだ。 (何を期待していたのだろう…。 分かっていたじゃない……。 私なんかが近づいていい相手じゃない事くらい……。) .
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