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「専務!!
先程頼まれた資料ですが!…………専務?」
経悟の声も、何も耳に入らない。
ただ彼女が出ていった扉を見つめるしかなかった。
熱が急速に冷めていく。目の前の視界も暗くなる。
(また……、あの時と一緒だ。芽咲が家を出ていった日。
彼女が荷物を持って玄関を出ていった時も、目の前が真っ暗になった。体が冷たくなっていく。
固まって動かなくなって、自分の意識がどこか遠くへ行ってしまうような感覚…)
「……専務、顔色が優れません。本日はお休みになられた方が良いかと…。」
心配そうに伺う。
「今日はどうしても終わらせないといけない仕事が残ってる。
薬も飲む。大丈夫だ…、」
そう告げ、席に戻り机の上に置いてあるコップと薬に手を伸ばす。
「…こちらの薬は?……先程の方が持って来て下さったのですか?」
「あぁ……。」
それ以上は何も言わなかった。
「確か経理課の樹さんですね。とても気が利く方ですね?」
優しく微笑み紫炎を見た。
「……そうだな。移動するのも面倒だ。今日はここで作業を進めよう。始めるぞ!」
少し笑って見せ、又真剣な顔つきでPCを見つめた。
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