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キッチンに戻り、オーブンの焼き上がる時間を確認してから途中だった食器を洗い始めた。
(少しからかい過ぎたかな?)
つい芽咲の困った反応が見たくて少し大胆な事をしてしまったが、自分はS寄りなんだと改めて実感した。
今まで理性で押さえ紳士的に振る舞ってきたが、ここ2、3日の間でその理性が軽く崩れそうだった。寧ろ紫炎自身が壊していた。
芽咲が家を出た日のように、また苦しくなるのならいっそ……
彼女がそばにいるから自分はこんなに笑っていられる。世界に色が宿り、楽に呼吸が出来る。暗く冷たかったこの部屋が、暖かく優しく自分を包んでくれる。
また彼女がいない世界に戻りたくない。そう思えば思う程、理性が崩れていく。
芽咲が家を出てから、紫炎は大きな決断をしていた。そしてひたすら仕事に打ち込んだ。何かに取り憑かれたように仕事に力を注いだ。その頃から笑わなくなった。彼女がいない苦しさを仕事で埋め、紛らわしていたのだった。
(あれから4年たった。もういいよな……?)
芽咲に触れる度、紫炎の想いは揺れた。
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