恋煩い

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それから片付けをし家に帰る仕度をする。準備が出来たところで紫炎が声を掛ける。 「芽咲、準備出来たか?」 「うん。」 「行こうか。」 紫炎は出張の為キャリーを用意していた。 2人で家を出て車に乗り込んだ。助手席のドアを開けられ、それに従うように芽咲が乗る。しっかり乗ったのを確認してからドアを閉め、紫炎も運転席に座り車を動かし走り出した。 芽咲の家は車で30分のところにあり、少し離れた所で近くもなければ遠くもない距離だった。 家に近づけば近づく程気分は重くなり、瞳には悲しみの色が宿り紫炎の方は向けず、窓の外の景色ばかりを見つめていた。 見慣れた景色が広がり家がもうすぐだと分かると、自分自身に言い聞かせる。 (会えなくなるわけじゃない…。もっと一緒にいたいなんて我が儘は許されない。顔に出さないようにしなくちゃ…) そしてとうとう車はマンションの前に静かに停まった。平静を装い、笑顔を作り紫炎に向き直る。 「紫炎、本当にありがとう。迷惑かけてごめんなさい…。出張気を付けて行って来てね?後、あんまり無理はしないでね…。」 心配そうに見つめる。 「あぁ、こちらこそありがとう。気を付けるよ。」 「…うん。行ってらっしゃい。それじゃあ…」 車を降りようと紫炎に背を向け、ドアに手をかけた瞬間、 「芽咲っ!」 後ろから手を掴まれ呼ばれた。振り向くと紫炎は真剣な眼差しでこちらを見つめ、身を乗り出して距離をつめている。 .
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