愛惜

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高級なお店に入るのが慣れていない訳でもないし、テーブルマナーが出来ない訳でもない。 ただ紫炎とこんなお店に2人で行く事が初めてでましてや、懐石料理店に連れて行かれると思ってもみなかった。 メニュー表もなく、どうするのかと考えていると先程の女将が料理を運びに来た。どうやら注文は先にしておいたみたいだった。 次々とテーブルの上に色とりどりの料理が運ばれ、テーブルの上には乗り切れないくらいになった。また運ばれて来るたびに女将が料理の解説を丁寧にしてくれる。 旬の食材をふんだんに使った料理で、季節野菜の煮物盛り。味噌漬け豆腐に酒粕天ぷら、鯛あら煮と和牛フィレやまかけ。甘辛若鶏竜田揚げ、南州豚角煮と、薩摩芋スティック蜂蜜バター、茶碗蒸し。食後のデザートに洋梨のジェラートというメニューだった。 (こっ……こんなに!? ………食べきれるのかな……?) 目の前の光り輝く料理を前にし、戸惑ってしまう。 この量を平らげる事は出来るのだろうか?また金額は? 目が回りそうだった。 目の前に座る紫炎は平然としている。 深海の家にいた頃はシェフが作ってくれていた料理を食べたり、紫炎の母の手料理を食べたり、たまに外出してこういったお店に行ったりしていた。 家を出てからはこういったお店に入る機会も減り、肥えていた舌も普通の感覚に戻っていた。 紫炎にとってこういった場所は普通であって当たり前なのだろう。世界の違いというのを感じてしまう。 .
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