愛惜

14/41
前へ
/153ページ
次へ
車内は静かで芽咲は窓の外を眺めた。 この前と同じような光景に少し身構えてしまう。 暫くして車はマンションの前で停まった。 紫炎が先に降りドアを開けてくれる。それに促されるようにゆっくり車を降りた。 「今日はご馳走様でした。あんないい所に連れてきてもらっちゃって…。」 紫炎に向きなおり、小さくお辞儀する。 「いや、こちらこそ急に呼び出して付き合わせてしまって悪かった…。一緒に食事できて良かったよ、ありがとう。」 優しく微笑み芽咲を見つめる。 そして一歩芽咲に近寄り、芽咲の右手を取り手の甲にそっと口付けた。 「…お休み。」 妖しい笑みを残し、そっと手を離すと車に乗った。 あまりに自然過ぎて芽咲はポカンとして立ち尽くしてしまう。 クラクションを一つ鳴らして車は走り出していった。車が見えなくなるまで見送るように立ち尽くし、車が見えなくなってから、やっと我にかえったのだった。 .
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!

123人が本棚に入れています
本棚に追加