はじめの合図

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朝とは違い、ゆっくりとしたペースで自転車をこぎならが帰る。 流れいく街並みをしっかりと確認し、何かを思い出すかのように風を感じながら進んでいく。 「この景色をみれるのもあと少しなんだ……」 里沙はそう思いながら現実を噛み締めていた。 朝と同様、信号が赤に変わり、自転車を止めた。 自然と反対側の歩道に目をやる。 向かい側には一台の自転車が信号待ちをしていた。 「あれは、隣の区の高校の制服か~今日卒業式って言ってたなぁ」 そんな事を考えながらぼんやりと見つめていた。 信号が青に変わる。 里沙が自転車をこぎだす。 同時に向かいの自転車も進み始めた。 そして再び真ん中くらいですれ違う。 その時だった。 「卒業おめでとう」 そう言った声が里沙の耳に飛び込んできた。 里沙はびっくりして自転車にブレーキをかけた。 そして声のした方を振り返った。 それは里沙とすれ違った自転車に乗った男の人だった。 「あの~ちょっと!」 どんどん離れていく自転車の男の人の背中に向かって声をかけた。 しかし声は届かなかったのか、彼は振り返る事はなくそのまま走りさった。
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