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和風の小部屋である。
鏡台と、ベッド、シャワー。
乱れた浴衣がベッドから垂れ下がっている。
仰向けになっているのは男。
それに覆いかぶさっているのは女。
薄暗い照明に照られた女の肌。
聞こえるのは男の吐息。
男が女の体に触れようと手を伸ばすと、その手を女がさえぎる。
女の唇が男の乳首を噛み、吸い。
男が上体を起こそうとすると、女はその肩を押さえつけるようにして、男の唇に唇を重ねる。
男があきらめて女のなすがままになろうとすると、女は自分の張りのある乳房を男の顔の前に突き出す。
男の手は押さえつけられている。
男が顔を上げてその乳房を味わうべく舌をのばすと、その動きに合わせて体をそらす。
その攻防の中でも、女の手は動き続ける。
苛立ちと刺激の中で男の脳の箍が少しづつ外れ、声を出すしかなくなる。
女の首がなまめかしく動き、頭が男の臍の下あたりで上下する。
男の声が次第に大きくなる。
まるで、女がそのときにそうなるような。
「すーさん、かわいいよねぇ」
浴衣を肩にかけて女が言う。
”すーさん”と呼ばれた男は返事に困った様子で女を見る。
「華子ちゃん、ネットでは『責められるのが大好き、Mっ気たっぷり』とか書いてるくせに、オレにはちっとも責めさせてくんないじゃん・・・」
タバコをくわえながら男が言う。
「あれは・・・しょうがないよ。声がいやらしいのは私の売りだもん」
男のくわえたタバコに火をつけながら女が言った。
風俗店『細雪』
”すーさん”と呼ばれた男、寿司場翔一の行きつけの店である。
女は華子。もちろん、本名ではない。
「でもね」
と女が言う。
「お客さんに責められて、声を出している私は『お仕事の私』」
華子の手が翔一の肩にかかり、腹のたるみの割りに筋肉のついた胸に頭がのる。
「でも、すーさん責めてる私は、もしかすると、本当の私かもしれない」
と言いながら華子が翔一の肩に歯を立てる。
どう答えたらいいのかわからず、翔一はタバコをふかす。
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