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「どちらへ行かれますか?」
突然の問い掛けに私は戸惑った。
見れば目の前には綺麗な女性が一人、立って私の方を向いている。
「どちらへ行かれますか?」
目の前の女の口から先ほど聞いた問い掛けが再び響いてきた。
女のすぐ後ろには扉が二つ並んでいる。
自(おの)ずと、そのどちらに行くかを聞いているのだと理解した。
「あ…あ…」
うまく考えがまとまらない。こちらを見ている女と目が合うと尚更うまく考えることが出来ず焦りが喉元まで押し寄せる。
「こっちです!…」
「分かりました。こちらですね」
私は何も考えぬうちに、左の扉を指差して答えていた。
しかし、深く考えぬ内に下してしまった決定を悔いるよりも、選択を終えた安堵感が何やら私の心を支配していた。
「では、どうぞ」
そう言うと、女は細く艶美な指を把手に掛け、まるで何億回と繰り返され、洗練し尽くされたかのような美しい動作で、扉を開けた。
開かれた扉の先には暗闇があった。
女は微笑みを浮かべこちらを見ている。
どうやら行かなければいけないらしい。
仕方なく私は開いた扉の前まで来ると、もう一度女の方を見た。
その微笑みはあと一歩の所で温かみに欠けていた。それは女の美しさから来るものであろうか。
先を行く私には関係の無い事だ。
暗闇の中に一歩、そしてもう一歩。
途端に体は急速な落下を感じた。
そして長く短い自由落下の後、心に衝撃を受けると同時に目を覚ました。
外は明るい。
私は深呼吸のをし、消えゆく夢の中の女の事を思った。
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