君が見えなくなる。

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己の部屋に戻りパジャマを脱ぎ制服に着替えれば、お母さんの声が階段下から響く。 どうやら朝ご飯ができたから早く食べに来いということらしい。 私も部屋からお母さんに了承の言葉を告げれば鞄に教材等を入れ階段を一段一段と降りていく。 階段を降りればキッチンから味噌汁のいい匂いがする。 それに思わず頬を緩ませればキッチンのドアノブをひねる。 ドアを開ければさらに匂いが漂った。 椅子に座ればお母さんによって私の目の前に置かれていくご飯、味噌汁、卵焼き、魚。 これは何の魚だろうか。 それが頭にちらつき気になったので聞いてみようと口を開くが、それはお母さんが先に言葉を発したことでかなわない。 声を発するために吸った息を、力を抜くように吐き出す。 「お弁当、ここに置くね」 「うん。わかった」 そう言いながら布に包まれた弁当箱を私が朝食を食べているテーブルに置くお母さんに私は小さく頷き答えた。 魚のことはさほど気にかけてはいなかったせいか頭にはもうなかった。 食べ終わった私は立ち上がり、食器もそのままに弁当箱を急いで鞄に入れる。 ふとテレビを視界に入れれば左上隅に表示されている時間は6時40分。 10分で学校に着くとはいえゆっくりし過ぎた。 食器を片付ける気がおきず逃げるように、玄関へ向かい靴を履けば家を飛び出した。 後ろでお母さんの怒る声が聞こえたが、聞こえないふりをしようか。 君が見えなくなる。 5 もしも私だけを忘れていたのだとしたら。 私が特別だから、なんて。 ポジティブに考えてもいいかな。
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