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イライラした様子で教室に入るとドスンと自分の席に座り、鞄を乱暴に机の上に置く。
そんな詩織をクラスメート達は触らぬ者に祟りなし、とばかりに遠巻きに見ている。
ただ朱里のみが平然と詩織の前の席に座り話しかけている。
「さっきの人、新しい用務員さんかな? 箒持ってたし」
楽しそうな顔をして言う朱里を詩織はうるさそうに睨む。だがそんなことに怯むことなく朱里は話し続ける。
「かなりのイケメンだったよね。あぁーん、お近づきになりたいわー」
そう言いながら朱里は両掌を組み、体をしならせる。
そんな朱里を完全無視して詩織は鞄の中から今日必要なモノを取り出している。
(あたしは絶対にお近づきになんてなりたくないわっ)
綺麗な顔をますます顰めて詩織は心の中でそう叫ぶ。
チャイムが鳴り、担任が入ってきてホームルームが始まった。朱里は自分の席に戻っていく。
ホームルームの間ずっと詩織は顔を顰め、イライラした様子で窓の外を見ていた。
窓の外では青々と茂った木々の幹にとまった蝉がその命を懸けて大きな声で鳴いている。
詩織はそんな風景を見て少し心が和む。
と、その時視界の端に何かが入り込んでくる。
そちらの方へと視線を動かす。そしてすぐにそちらの方を見たことを後悔する。
詩織の視線の先にはこちらを見上げて笑顔で手を振っている修一の姿があった。
詩織は小さく舌打ちすると視線を教室内に戻す。
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