始まりの声

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  私は自分の声を覚えていない。   私が最後に自分の声を聞いたのは5歳の頃、母親と喧嘩をしたときだった。   物心の付かない頃から毎日毎日通い続けた…否、正しくは通い続けさせられていたピアノ教室や歌の教室、学習塾や英会話教室、バレエに水泳にバイオリン…幼稚園に行く暇もなくただ学習ばかりを繰り返す毎日に嫌気がさした私は、習い事を止めたいと母に訴えた。 しかし母は私の主張などそっちのけで、ひたすら続けなさいの一辺倒だった。あなたは選ばれた子。普通の絶対音感の数十倍の音感や歌唱力、並はずれた学習能力や運動能力を持つ天才なのよ。あなたがそれらを極めたら、名実ともに世界一の人間になれる…と。   私は世界一なんてどうでもよかった。ただ普通に、幼稚園に行ったり友達と遊んだりできればそんなものいらなかった。  
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