overture

2/6
前へ
/610ページ
次へ
 南国の悪魔が全滅したと監獄島に伝令が届いたのは、幻月なる現象が報じられた昼間のことだった。  降り注ぐ日差しには似合わない報告に、監獄島第一等星警備警察隊事務所にいた勤務中の隊員三名は顔を見合わせる。  南国には副隊長がいる。監獄島に住むユーリ博士の別荘に休暇として出向いていたのだ。窓際に座るヒルが、続けて届いた文面を読み上げる。 「茶髪の青年と副隊長殿は悪魔消滅の際に消えたみたいだ」  嗄れた声に、他の二人が顔を歪める。無理もない。茶髪の青年は、隊長なのだ。それも果てしなく複雑な経緯を持つ身で、一口には語ることができないから困る。資料を机に投げ出して、隊員のアスカが運んだ湯呑み茶碗を受け取った。 「スピカ副、死んじゃったの?」  紫色をした眼差しが、ヒルを見る。隊員の中でも最年少のアスカは、ヒルにしてみれば孫みたいなものだ。不安げなアスカに笑いかけて、湯呑み茶碗を資料の上に置く。 「なあに、茶髪の青年が一緒なら問題あるまいて」 「だと良いんですけどね」  と、横槍を入れたのは会計長と呼ばれるアクスだった。入口付近の席で、資料を束ねながら、揚げ足を取るアクスにアスカが抗議する。 「会計長は、冷たいんだ! スピカ副隊長が居なくなったら隊は大変なんだからっ」
/610ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加