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めでたい婚儀とはいえ、その裏には謀略が蠢いていた。
呉にとっては、自分達が必死で曹操と戦い勝ち得た土地を奪った劉備が憎かったし、劉備にとっては、孫権の義弟になることでそんな孫呉の怒りをやり過ごそうという思惑があった。
劉備は一人、呉の重臣達が向ける怒りの視線の先に立たされた。
そんな重い空気が流れる中、天から舞い降りた女神は、劉備に優しく笑う。
孫仁「ようやく迎えに来たのね、劉備…。」
怪訝な表情の劉備をよそに、孫仁はゆっくりと手を胸の前で広げた。
孫仁「政略も陰謀も軍事も領土も関係ない…、あんたはただ、私を迎えに来たのでしょ?」
劉備「孫仁…。」
涼しげに言った孫仁を劉備は思わず抱き締めた。
劉備「俺の妻になってくれ。」
孫仁「……はい。」
抱き締めた劉備は確認できなかったが、孫仁の美しい頬に涙が伝っていった。
それは何よりも暖かい涙。
呉国太は何も言わず立ち上がり、手を叩いた。
その頬にも涙が光っている。
やがて、会場全体に拍手は広がっていく。
怒りに満ちた空気は、やがて祝福への歓声に変わっていった。
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