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 真冬の夜のアスファルトは、凍てつくよな冷たさだったろう。街灯もまばらな真っ黒の道は、どれほど心細かったろう。朦朧とする意識の中で、車のライトは怪物に見えたのかも知れない。 ――瀕死の仔猫。  父は渋い顔をしたが、弟が助けた。普段はむかつく弟だけど、少し勇敢に思えた。  車輪に轢かれたのか、手足は動かず、ぐたりとしている。幸いにも外傷は無い。瞼を一生懸命に持ち上げて、助けてと口を開いたかに見えた。少なくともあたしには、そう見えたんだ。  家に連れ帰って、まずペットボトルにお湯を入れた即席の湯たんぽを作る。猫は安心したように、目を細めて丸まっていた。餌を与えたけど食べない。この晩は、つきっきりで見ていた。  翌日、ペット用品を弟と買いに出掛けた。少しうきうきしていた。家に帰ってから仔猫用の粉ミルクを作り、哺乳瓶で与える。ごくごくと勢いよく飲む姿からは、生きたいという思いが伝わってくる。そしてその動作はとても、愛らしかった。  その翌朝、仔猫はまだ治っていない四肢を僅かながらも動かして、懸命に歩こうとしていた。どうやら元気と気力を取り戻したようだ。一日に何度か、ミルクを作って与える――子育てみたいだなぁと思った。  そして、弟に世話を任せた次の日の夕方、仔猫は死んだ。突然に、ほんの少し、目を離したその時に。  弟もあたしも泣いた。  父は、こうなることがわかっていたのだろう。黙って、仔猫の死骸を土に埋めた。  あの日路上で、誰にも気づかれること無く死ぬのと、少し長く生きて、今日死ぬのと、どちらがこの子にとって幸せだったのだろう。  この涙は、人間のエゴだ。分っているにも拘わらず、あたしは泣いていた。泣き続けた。助けて良かったのだと、自分自身に言い聞かせるように。
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