大晦日

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ある寒い夜の、とある神社は夜の帳が下りているにも関わらず、優しい明かりに包まれていた。 今日が大晦日だからである。 そこで一人の若い男が【交通安全のお守り】を選び、ダウンコートのポケットから小銭を取り出した。 その男の手は去年と違い、誰とも繋がる事もなく、温かくも冷たいダウンコートの中に吸い込まれていった。 「来年がよいお年となりますように」 男に、神社のバイトの女性がマニュアル通りの定例句を述べるのを、男は苦笑しつつ聞いていた。 それから男は、見るともなしに辺りの出店を眺めながら、カップルや家族連れが多いことに気がついた。 ふいに男は、自分が世界で一番孤独な人間ではなかろうかとバカなことを思い至った。 自嘲した男がフッと吐いた溜息は、白く染まり天に昇っていく。 「ああ、私も昇ってゆけたらいいのに」 夜空を仰ぎながら、男はぼそっと呟いた。
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