長い初恋

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 電車から望む故郷の景観は、さほど大きく変わってはいなかった。左手の高台に住宅街、右手には湖と、それに面した大規模公園。懐かしい風景だ。  会場は駅からハッキリそれと解るほど大きなホテルだった。 「よぉ、生きてたか! 懐かしいな。元気そうでなによりだ」  会場に入り、受付を済ませてから、そんな挨拶を幾度繰り返したろうか。  彼女に会えるかも知れない……。  実はそんな淡い期待を抱きながら今回は中学の同窓会に初めて参加したのだ。  しかし会えたところで、どうということはない。なぜなら僕には既に守るべき家庭があるからだ。恐らくは彼女も同じだろう。  ただ、彼女は僕の初恋の人だった。それも片思いの。  彼女は、ずば抜けて頭が良くて、成績は常に学年トップクラスだった。知的で楚々としたところが魅力だった。近寄り難い雰囲気は確かにあったかも知れない。だが僕は、そんな彼女の瞳と声に惹かれていた。  だから、中学時代の一時期、席が彼女と隣り合わせになった時は、それだけで嬉しかった。  しかし、それだけのことだった。これといって特筆すべき事件は起こらず、つまり告白もせず喧嘩もしなければ、何かについて親しく語り合うこともなかった。強いて言えば消しゴムの貸し借りや年賀状を交わしたぐらいか。要するにクラスメイトの一人に過ぎなかった。  彼女は名門女子高へ進学し、僕は男子高だった。  後年、友人に誘われてI大学の紫苑祭を覗いた折りに、偶然、彼女と邂逅することになるのだが……。
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