長い初恋

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 彼女は息を呑むほど美しい女性に成長していた。きっと晩稲(おくて)だったのだろう。身長もぐんと伸びて艶やかなロングヘアーの優美な姿態は別人かと思えたほどだった。しかしそこは、やはり同級生だ。かつての面影を同時に思い出して安心したものだ。黒目がちの瞳とその声は変わらず魅力的で、懐かしかった。    予定の時刻を過ぎても彼女はついに姿を現さなかった。  だが、間もなく僕はその理由を知ることになる。  クラスメイトの消息に話が及び「黒沢は去年、死んだらしいよ。交通事故で」と聞かされたのだ。  嗚呼……そうだったのか。君はもう居ないのか。  動揺と落胆を面に出してはならぬ。僕は二次会には参加せず、気がつけば湖畔の公園のベンチに茫然と座っていた。  人も世の中も刻一刻と変わって行く。有為転変の理は知っている。誰もがそのままでは居られないのだ。  だが……それでも、人の想いというものは……。  僕は曇り空に呼びかけずには居られなかった。  麗子……今だから言うけど……告白するよ。僕は君のことが好きだった。  風が出て来たらしい。湖面にさざ波が立っている。桜の花が散り始めた。  感傷の涙を溢れさせ、虚空の麗子に想いを伝えると、長らく胸の内にくすぶっていた気持ちの整理が漸く(ようやく)ついた。  そうして僕の長い初恋は終わったのだ。  ――さて、帰ろう。  愛する家族の元へ。  僕はコートの襟を立て、駅を目指した。 ―了―
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