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「あなた、今日はこのまま帰りましょ」
「えっ? 海浜公園には寄らなくていいの?」
「ええ、途中に食べ放題のお店があったでしょ」
妻は、出がけに救急車を見かけたことを気にしているらしい。
考え過ぎなんじゃないのかと喉まで出かかったが、「パパ! あったでしょ」と念を押す娘の言葉に、「うん。あったあった」と素直に答えるしかなかった。
だが、やがて僕は自分の思い違いを知った。
自宅へ近づく頃にラジオのニュースで、海浜公園のインター付近で玉突き事故が発生したのを知り、妻に話しかけたのだが……。
「香苗のいう通りだったよ」
「えっ? なんのこと?」
「だから、不吉な胸騒ぎがしたんだろ? だから予定を変更したのじゃ」
「ああ、それはね違うの。幼稚園の役員会を思い出したの」
「えっ! じゃあ救急車のせいじゃなかったのか? 僕はてっきり……」
「救急車がどうかしたの?」
「いや……いいんだ」
僕の早とちりの思い違いだったのだ。
「ただいま」
今、戻りました。お母さん……これは昨日、紅葉狩りの道々、子供達が道端で拾った落ち葉です。下の子なんて、もみじのような手でもみじを拾うのですから笑ってしまいます。子供達は、どうやら紅葉狩りとは葉っぱを集めて帰ることだと思い込んでいるようです。
「きゃーっ、やめろーっ」
子供達がふざけ合っているらしい。
「きゃははははーっ」
浴室から笑い声が響いて来た。
子供達の思い込みを笑えようか?
僕は苦笑しながら、母の写真の前に朱く色付いたそれを供えた。
―了―
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