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その日、約束の時間には少し間があったので、僕は道すがら公園に立ち寄り、時間調整を図った。
ベンチに腰を降ろし、煙草をつけながら携帯を開く。着信履歴をチェックして不要なメールを整理する。いつしか習慣だ。
ふと見ると、桜の木の下で、人だかりがしている。
何だろうか? 映画の撮影でもなさそうだが……。
気まぐれに近づいてみると、どうやら信仰に関わる問答のようだ。端正な顔立ちの青年が片手に書物を開いて持ち、生真面目そうな表情で人垣に問いかけている。
一迅の風が吹き、書物のページがめくれ、青年の髪が揺れている図は、まるでドラマでも見ているようで、様になっている。
要約すれば「この世で最も尊く、人を勇気づけ、人の心を和ませるものは何ですか?」と彼は問うているらしい。
恐らく、それは『神の愛』だと言いたいのだろう。お決まりの文句だ。
僕は、今のところ信仰にすがるつもりがないので、早々にその場を辞した。
取り敢えず今は、彼女とのデートを順調に運ぶことが最重要課題なのだ。これに遅れては、信頼関係が軋み兼ねない。
僕は約束の場所へ急いだ。
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