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信号を二つ越えた右手のファミレスが待ち合わせの場所だ。
信号待ちで、間もなく青に変わろうとする矢先のことだった。不意に背中に子どもの笑い声を聞いたのだ。
振り返ると若い母親が乳呑み児をあやしていた。 赤ん坊は嬉しそうに「きゃっきゃ」と反応している。
そうか! 解った!
この世で一番、尊く、人を勇気づけ、和ませるものは何か?
それは……子供の笑顔だ。
赤ん坊の無邪気な笑い声ほどに人を勇気づけ、和ませる力のあるものが他にあろうか?
僕は、走って戻り、桜の木の下の彼に回答してやりたい衝動に駆られた。だが、それは敢えて断念した。
聡美とのデートに遅れてはならぬ。
何故なら今日、これから僕は彼女の両親に初めて挨拶する為に訪問の予定があるからだ。
横断歩道の向こう側に聡美の笑顔が見えた。僕は反射的に右手を高く挙げて嬉しさを伝えた。
―了―
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