藤袴の縁

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 伝説期の太古の唐土に、帝堯という聖君がいたという。帝堯は孝行者の舜に娘を与えて、婿とした。帝堯には息子がいたが、我が子には後を継がせず、王位を舜に譲った。  その帝舜は重瞳であったという。  重瞳は双瞳ともいう。一つの目の中に瞳が二つあるという奇相である。  信長が蒲生家に注目しているのは事実である。だが、それ以上に、一目で鶴千代という少年に憑かれてしまったのだ。  堯が舜を婿にしたように──信長は考える。  くせ者・紹巴もほめちぎるくらいだ。信長の霊感は確かかもしれない。 「奴は岐阜に送っておいたが、帰ったら様子を見てやろう。見所があれば考えてやる」 「となると、どの姫様を娶せられますので?姪の姫様、いとこの姫様、ご養女の姫様、色々おられましょう?」  藤吉郎が身を乗り出して聞いてくる。 「誰それとか、お前が気にすることかよ。織田の娘なら、誰でもよかろう。変な奴よな」
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