序章

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 王となる者には、昔から異形の者がしばしばいるという。  お市が藤吉郎の心の汚さの表れであるとして、嫌悪したその指を、冬姫は恐れもせずに眺めている。  双瞳(重瞳)の者は、常人の二倍、物事が見通せる。六指の者もまた、常人よりも多くの作業を、一度にこなすことができるだろう。 「だから、他の者に真似できない功績の数々を、築けているのね」  だから、異形に王者はよくあるのだと、幼い冬姫は言った。  まだこんなに小さいのに。その言い様に心底驚いた。  人の姿形は、その人の性質をも表すとはよく言う。きっと、お市のような美しい者は、凛と気高いのだろう。藤吉郎のように醜い者は、お市の言うように、心醜いのに違いない。 (だが、その醜さが、きっと道を拓くに違いない!)  体中に稲妻が走り抜けるようだった。  これまで、なりふり構わず生きてきた。自分の醜い姿すら利用して。それで、心密かに卑屈になって。  だが、卑屈になったのは、人の表面の美しさしか見ていなかったからだ。藤吉郎はこの幼い冬姫に気付かされた。 (この姫さまは、いったいどんなふうに育つんだろう?) ──ずっと見て行きたい──
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