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「ゴメンゴメン。でも正月なのに事務所で大ちゃんがぐーたらしてるからさぁ」
朝霧剣斗――この「朝霧探偵事務所」の所長だ。パーマがかった茶色の髪に薄い眼鏡が似合う優男だ。
そして朝霧に「大ちゃん」と呼ばれた赤城大輔は頭を掻いた。
「寝正月ってヤツっすよ。安眠の邪魔をしないでくださいよ」
赤城が驚いた弾みで離してしまったタバコを床から拾い上げて再び吹かすと、朝霧は「もう」と頬を膨らませた。
「1年の始まりからそんなんでどうすんの」
「大晦日に朝霧さんに付き合って事務所の大掃除したから疲れてんスよ」
朝霧は照れながら頭を掻く。
つい先日……年末は事務所を締め、大掃除を行った。
普段 掃除をすることないこの事務所の大掃除は困難を極めた。
予算が無く、どこかに頼むこともできずこの事務所の所員……朝霧と赤城。そしてお手伝いとしてよく顔を出す女子高生、通称「なるちゃん」の3人総出でも、事務所を綺麗にするには丸3日かかったのだ。
赤城としてはもう一歩も動きたくない。
「そんなこと言わずにさぁ。お餅買ってきたから食べよーよ」
自分より歳上にも関わらず朝霧に子どものようにせがまれ、赤城は渋々と身体を起こす。
「……わかりましたよ。どこにあるんスか?」
赤城の言葉で朝霧はパッと顔を明るくし、どこからともなくスーパーの袋を出現させて、その中から袋に詰められた特売用の餅を赤城に差し出した。
「はい、これ」
赤城は自分に差し出された餅の袋と、にこにこと笑う朝霧の顔を交互に見る。
「……えっ?」
「揚・げ・て?」
色っぽく朝霧の言った言葉はスルーし、赤城は目を細める。
(ここからかよ……)
そう呟きながらも朝霧さんの笑顔には文句を言わせぬものがあり、赤城は仕方なく餅の袋を受け取って小さな台所へ向かった。
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