宣戦布告

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 赤城は欠伸をしながら餅を鍋で揚げる。パチパチといい心地よい音と共に小さく油が櫨ぜる。 「なんで俺が……」  愚痴を溢しつつ朝霧のほうを見ると、当の本人は元旦からやっているバラエティ番組のスペシャルを見ながら笑っている。  一応 事務所に居候させてもらっている身なのでわがままは言えないが、少しは年末大掃除の疲れをとらせてもらいたいものである。  餅の表面に良い感じに焦げ目がつき、膨らんだところで菜箸で餅を油から取り出す。キッチンペーパーで余分な油を落とし、皿に盛る。  4個ほど皿に乗せた後、引き出しから真空パックに入った海苔を取り出して朝霧さんの待つ事務所の応接スペースに戻った。 「できましたー」  赤城がガラスで出来たテーブルの上に餅を置くと、朝霧は「お見事」とでも言うように拍手をした。 「やっぱりお餅は油で揚げるのが一番だよねー」 「揚げたのは俺ですけどね」  赤城は凝った肩を回しつつ、マルボロの箱に手を伸ばした。  朝霧は餅を醤油に付け、海苔で巻いて口に運ぶ。  正月ということで今日は特別だが、基本的には毎日 こんな感じだ。  赤城がこの「朝霧探偵事務所」にきて3ヶ月……探偵事務所であるからそれなりに依頼人は来るのだが、それ以外ではこんなふうにぐうたらと事務所で時間と暇を持て余している。  この探偵事務所の職員は現在3人。所長の朝霧剣斗。赤城大輔。そして押しかけアルバイトとして働く、女子高生の「なるちゃん」だ。  基本的にこの3人でこの事務所をやりくりしている。  と、いってもこの事務所は小さく、テナントビルの2階を借りてそこを事務所にしている。  一応3人分のデスクや応接スペース、小さな台所、奥にある資料室と仮眠室だけでいっぱいいっぱいという感じだ。  ……まぁ 小さくても普段から掃除しないせいで年末の大掃除はとてつもなく大変だったのだが。
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