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捜査員らが一斉に銃口を向けた。
夜の港。停泊する貨物船。立ち並ぶコンテナ。ぽつぽつとアスファルトの地面を照らす外灯。
静寂に包まれていた港は一気に騒がしくなった。
どこかでばさばさと鳥たちが羽ばたく音がした。
警察が用意した照明を当てられた人物は抵抗する様子もなく、両手を上げていた。
彗鶴 準もその中にいた。
目の前にいるのは罪無き人々を幾度となく殺害した、連続殺人犯。
警視庁捜査一課に配属され、数年前の「復讐鬼事件」以来の大きな仕事だった。
彗鶴は支給品の拳銃を犯人の背中に向けていた。
正直言って足が竦む。手が震える。
目の前にいるのは容易く命を奪う凶悪な男なのだ。
額を流れる汗を拭おうともせず、彗鶴は標準を犯人に合わせる。
何か不審な動きをしたら迷わず発砲しろ、と上司の財門龍一警視に言われている。
ようやく巡ってきた大舞台。そこで失態を晒すわけにはいかない。
捜査員が囲む犯人に向かって、陣頭指揮を取る刑事が拡声器で犯人に呼び掛けた。
「神宮司 弾(じんぐうじ だん)。お前を殺人容疑で逮捕する。なおお前には黙秘権がある。その――」
「ぶつぶつ言ってる場合か?」
神宮司が呟いた。彼を囲む捜査員に緊張が走る。
「そんな業務的な言葉を並べてる間に俺が今 ここにいる誰かを殺すかもしれないんだぜ?」
殺す……その言葉を聞いて彗鶴は自分の心臓がドクンと高鳴るのを感じた。
拳銃を構え直す。
しかし神宮司のこの様子はなんだ?
10名ほどの捜査員が神宮司に銃を向けており、さらに多数の捜査員らも控えている。
だが神宮司は臆する様子もない。
まさか……逃げられるとでも思っているのか?
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