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突如、男性捜査員からぼっ という音とともに頭部が発火した。
いや、すぐに「発火した」と認識できなかった。
こんな場所で、しかも人間から発火するなど考えられなかったからだ。
予想範囲の外から飛び出てきた現実は、捜査員らに混乱を起こした。
「あっひゃっひゃっひゃぁ!!」
神宮司の耳に障る笑い声が港に響く。
彗鶴がその声の方向に銃を向けたとき、自分でも血の気が引くのが分かった。
神宮司は女性捜査員の背後に回り、左腕で捜査員の首を絞め、右手には彼女が持っていたはずの拳銃が握られれていた。
神宮司は嘲笑うかのように舌を出すと、拳銃を女性捜査員のこめかみに当てた。
「ばぁーか。そんなんだから俺一人捕まえられねぇんだよ」
神宮司が銃口をぐりぐりと押しつけ、あまりの痛みから女性捜査員は口を曲げる。
さらに恐怖からか肩は震え、瞳にはうっすらと涙を浮かべている。
「か、彼女を離せ」
彗鶴は呟いた。
発火した男性捜査員のから発せられる、焦げ付いた匂いが鼻につく。
そして自分の目の前で起きている現状。
それは彗鶴にとって、今まで感じたことのない"恐怖"だった。
神宮司という男の行動、言動。そのひとつひとつが狂気を孕み、空間を支配する。
まるで悪意の塊のような神宮司を見ていると、彗鶴は体の内から不快感を感じ、吐き出しそうになる胃液を辛うじて抑えた。
神宮司はまるで彗鶴の身に起きていることを見透かしたように笑った。
「離して欲しいなら撃ってみろよ」
神宮司の構える拳銃が強く女性捜査員に押しつけられる。
彼女は彗鶴に助けを懇願するように、涙を浮かべた目で見てくる。
だがその背後にいる、神宮司という絶対的な"死"という化物が彗鶴の行動を縛る。
「できねぇよなぁ? 人を殺すことに恐怖してんだから」
神宮司はまるで爬虫類のように舌を出して彗鶴を挑発する。
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