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「てめぇらは"殺人"てもんに恐怖しすぎてる。俺は犯罪者だぜ? そんな犯罪者相手でも命を奪っちまうのが怖くて引き金が引けねぇ。そんなんで命を救おうなんざ甘ぇんだよ」
ふざけるな。
彗鶴は叫びたかった。
殺人に恐怖? 当たり前だ。
この指を引くだけで目の前の命を消してしまうことだってある。
それに恐怖するのは人間として当たり前だ。
だがこの神宮司は違う。"殺人"や"死"に対して恐怖といった感情を持ち合わせていない。それどころか、快楽ですらある。
そんな人間は……居てはいけないはずだ。
だが。
神宮司の存在を否定したくとも、命という計り切れないものを目の前にするといざ、引き金が引けない。
何故だ……!?
神宮司を撃たなければ、また新たな犠牲者が出る。それは絶対に避けなくてはいけない。
なのに。
なぜ撃てない!?
「ちっ……張り合いのねぇ」
神宮司は舌打ちすると同時に手に握るニューナンブの引き金を引いた。
乾いた銃声が夜の港に響く。
彗鶴は一瞬肩を弾ませた。
神宮司の拳銃から発射された弾丸は女性捜査員の足下を僅かに外れて、地面に着弾していた。
彼女の表情を見るともはや限界だ。
恐怖と絶望に囚われ、今にも舌を噛みきりそうだ。
「どうだ? ちったぁ"殺る"気が出たか?」
神宮司はけらけらと笑う。
そんな悪魔の笑みにもはや彗鶴は自我を失った。
「神宮司ぃっっ!!!」
「あーっひゃっひゃっひゃ!!」
彗鶴が意識の最後に聞いたのは神宮司の笑い声だった。
そしてその笑い声が、人類絶滅への始まりの合図だった。
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