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ひとの人格なんてありはしないのよ。 私と正反対のクルクルとしたショートの髪の少女は少女らしい笑みを満面に浮かべてノートをきゅっと抱き締めた。
莨の煙の向こう側なので随分曖昧糢糊としている。その手の甲には何時かの私が付けたちいさなまるい火傷。
「一コンマ一秒で切断されている『水面』が時間に動かされて、映画フィルムのようにスクリーンに投影されたモノがひとの眼に映る。それがあたしであり、あなたなのよ。」
人格は時間そのものよ。
私をまっつぐにみつめて眼をみて、時間そのものだからひとつとは言い切れないし流動的でそれこそ水のよう。形はないのいくらでも変化自在よ。だからこそあなたはあなたで、あたしはあたしなの。とキッパリと言って。
まるい火傷のついた手を矢張りまっつぐ、私の彼女とは正反対の、まっつぐな朱い髪に伸ばすのだ。
「あなたの、ひとの総てを壊して終まう性質がアイデンティティであるなら、それを良しとするなら、どうしてあなたはそうして莨を手放せないの?」
あなたはあなたよあたしじゃないのよ。いいのよ。あなたは亡くならないのよ。 留めるひとなんか居ないのよ。
何が言いたいと私が唸れば、良いの解らなくてもそういうものなの。少女はそういって笑うのだ。
苛々して彼女の手の甲で揉み消すと、また丸い火傷がぽつりと増えた。彼女は痛い顔もせず、笑ったまま莨の煙に紛れて消えた。
残ったのは私の手の甲の火傷だけだ。
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