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シェンバロ王国の王子と、結婚。
私はまだ16歳なのに。
「ううん。違うわ。“もう”16歳なのよ」
そう。もう結婚する年頃なのだ。私は遅すぎるくらい。他国では9歳で婚姻の儀式を行ったという王女もいるらしいし。
ラティアはそう自分に言い聞かせる。
「でも……」
結婚したくない。
この国を離れたくない。
どうしよう、泣きそうだわ。
さっき、結婚という言葉を聞いてから、ずっと頭に浮かんでいる言葉がある。
『オレ、ラティとけっこんする!ヤなヤツからさらってやるよ!』
幼い頃、幼なじみから言われた言葉。
母から王女の役目は良い国の王子と結婚することだと聞かされ、結婚なんてしたくない、この国を離れたくないと幼なじみに訴えたときに返ってきた言葉がこれだ。
彼の言葉に期待しているわけではない。
幼い時のただの約束だ。
きっと相手はすでに忘れている。それに、結婚なんて出来るわけがない。
―――身分が、違いすぎる。
王女であるラティアに対し、彼は母の侍女の息子。
身分など気にせずに遊んでいたあの頃とは勝手が違う。
しかし、結婚できないからといってさらってみようものなら、王族誘拐の罪で死刑は確実。
「でも、ヴェントは口や態度が悪くても優しいから……。きっと私が『さらって』なんて言ったら本当にやっちゃうわね」
だから、絶対に言えない。
私のために命を落とすなんて、絶対にイヤ。
このことは、ヴェントにだけは決して知られてはならない。
もやもやした気持ちを、ため息とともに吐き出す。
今更、何も変わらないのだ。
ならばこの国に少しでも悔いの残らないようにしなければ。
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