己の価値

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ケルト=バラモント。 そう。何の前触れもなくこの名前が最初に出るということは、つまるところ彼がこの物語における主人公であるということだ。 彼に関する話を少々。彼は町ではない、町の付近の山に住んでいる。人里離れたそこは、外界との接触を遮断するにはとても便利な環境であった。 だが、便利なのはその1点だけ。後は全てが不便と言えた。欲しいものがあったとしてもそこは山の中。腹が減れば食料を調達しにいかなければならない。風呂に入りたいと思えば、川から引いた井戸の水をくみ上げ、薪で火を起こし。そんな環境だ。 だが、そんな不便な生活ではあったが、不幸ではなかった。彼の中の世界は幸福である。何もない、ただ生きるだけのその生活こそが。外界との接触を遮断することにより訪れる幸福。それは得てして何を意味するのか。 世界は混沌としているということだ。そして、平和とも言いがたいということであろう。この世界は悪魔の支配する世界。悪魔によって創り上げられた、悪魔にとって住み心地の良い世界。では、彼もまた悪魔なのか。それは半分正解で、半分は間違っているということ。半分間違っているからこそ、彼は人里を拒絶している。 彼は人間・・・、だった。そう。だったというのが事実であり正解だ。人間と悪魔との力差は3倍違うとされている。だが、それは一番弱い悪魔の話だ。そんな世界で人間が生きられるはずが無い。一方的に殺されて終わりなのか。
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