己の価値

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「何イキがってんだよ。畑仕事なら俺が代わりにやるから」 ケルトは部屋を出ようとする爺さんを必死に止める。 「お前には別の仕事があるじゃろうが。つべこべ言うな」 爺さんを心配し、労わる気持ちで言っているにも関わらず、ケルトは爺さんに叱咤される。そして、そのままケルトを押しのけ、家を出ていってしまった。肩にクワをを携えて。 「全くよぉ・・・。頑固ジジイが」 ケルトはひとつため息をつくと、自身にも仕事があったのだろう。準備を始める。ケルトは家を出て離れの倉庫へ行くと、大きな籠を準備し、その中に倉庫に保管してある野菜を詰めだした。これで良しと。 ケルトは籠いっぱいに野菜を詰めると、それを背中にからう。どこに行くのかといえば、それは町だった。人里離れた山の山頂から麓の町まで、時間で言えば片道1時間という道のりであろうか。ほぼ毎日ケルトは通っている。町で野菜を売り、完売すれば帰る。それがケルトの日常だった。 元々はこんな仕事、嫌だった。人里を拒絶したケルトは人と、いや、悪魔とは会いたくなかった。だが、生活をする上ではどうしてもお金は必要である。服を買ったり。そういうことはお金がなければできないのだから。 同居しているのは見ての通りの白髪の爺さん。毎日山を上り下りさせるのは少々酷だ。だから、これは適材適所といえるのだろう。渋々ではあったが、ケルトは仕方なくこの仕事を担当している。 町ではケルトは社交的であった。
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