己の価値

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そう言って、ケルトは鼻を啜りながら、ミリの頭を優しく撫でる。先ほどまでのミリとは表情が変わっていた。目には大粒の涙を溜め、それは今にも零れ落ちそうなほどだった。 「ケルト、本当に・・・、本当にいいの・・・」 その表情にケルトは大の大人にはあるまじき程の涙を見せる。 「いいんだって。全て俺に任せろ」 そう言って再び強く抱きしめる。と、ケルトは少しホッとする。先ほどとは違うことが起きているからだ。 ミリの小さな手がケルトの背中に回り、服を強く握っていたのだった。 それから2人は暫く泣き続けた。ケルトが泣き止んだ後も、ミリが泣き止むことはなかった。ただひたすらに、1日中泣いたのではと思うくらいに泣いていた。ミリの背負っていたものが全て肩から下りたのだろう。そう思ったケルトは優しくそんなミリを見つめたのだった。 それから、ミリは泣きつかれたのだろか、そのまま寝てしまった。布団は1つしかなかったため、ケルトは母の横にミリを寝かせると、横に座り、ミリが寝ている姿をそのまま眺めた。 (俺が、何とかしなければ。) ミリとそう約束したのだ。ケルトは燃え上がる気持ちを今は抑えつつ、ミリが起きるのを待つことにした。 (山賊なんてもうどうでもいい。ミリは山賊と協力していたのだ。ってことは、ミリの母に呪文をかけた奴は山賊の中にはいないってことだ。だが、術者には手がかりがなさすぎる。いったいどうすれば・・・。) 考えても考えても名案の浮かばないケルトは、悔しいがとりあえずここは寝て、明日また考えることにした。名案が浮かぶことを期待して。と、意識を手放そうとした瞬間、ケルトはくわっと目を見開いた。
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