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あの屋上での出会いから、ふたりは急激に仲良くなっていた。
出会いと言っても、元々ふたりは同じクラスであり互いに顔も名前も知っていたため軽く会話をしたことはあった。
だが、片や寮住まいのどちらかと言えば優秀である生徒に分類される渡部と、片やクラスのムードメーカーで成績の芳しくない酒井。
さほど接点のなさそうなふたりが何故屋上で待ち合わせをしているかというと、それはふたりの唯一の共通点、サボタージュである。
渡部はひとりの時間を楽しむために、酒井は授業を受けたくないがために抜け出した先が屋上であり、そこからふたりは屋上で時間を過ごすようになった。
ひとりを楽しむために来ている屋上で酒井との時間を過ごすだなんて、とんだ矛盾だということはとうに気付いている。だが、その時間を楽しんでいるのも事実であり、その理由もとっくに気付いていた。
「酒井くーん、お菓子買ってきてくれた?」
「あぁ。なんか新商品出てたから買ってきてやったぞ」
「ありがとー! 酒井くん大好きー」
「うっせ」
姿勢を正しポケットから財布を取り出そうとすると、酒井は座りながらそれを手で制した。
「この前肉まん奢ってもらったし」
三日前のことだ。帰るとき一緒になって、学校前のコンビニでふたりで食べたのだ。
酒井が袋から取り出したのは、この季節になるとコンビニに並ぶ冬季限定のチョコだった。生チョコを更にチョコで包み上からココアパウダーをまぶしたそれは、冬に近付くにつれ渡部の部屋のお菓子ストック棚に必ずと言っていいほど鎮座している。
「あっ、僕これ好きなんだー、ありがと」
チョコの箱を受け取りさっそく開ける。個包装されている袋がガサガサ音を立てた。
もうすでに冷め始めているホットココアのパックにストローを挿し、甘い液体を吸えば正面に座った酒井が何か言いたげにしながら眉をひそめてサンドイッチを食べていた。
「……? 何?」
「お前さぁ……、いや、いいわ……」
ぱく、と口を開いて、結局何も言わず酒井はハムサンドを喉に押し込んだ。
チョコを口に放り込みながら、渡部は酒井が何を言いたいのかわかっていた。
甘いもの好きの渡部は常に甘いものを携帯し、事あるごとにそれを酒井の前で口にしているのだが、それを見る度に酒井はあからさまに眉をしかめて見てくる。それは睨むと言ってもいいかもしれない。
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