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景色が流れていく。
高級車の後部座席に身を沈めぼんやりと外を眺める真人の姿をバックミラーでチラリと見やり田崎は声をかけた。
「今日もあの場所でよろしいのですか?」
「……うん」
目的地へと辿り着き、田崎はドアを開いた。
少しだけ肌寒い朝の空気が心地よい。
「行ってくる」
「坊ちゃん、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
緩やかな坂道を昇っていく。以前は学校まで車で通っていたのだが、最近真人には登校前に必ず寄る場所があった。
坂を昇りきった先にある赤い屋根の家。
壁に隠れ、こっそりと玄関前を覗き見る真人。
「今日も一緒かあ……」
真人の視線の先には穏やかに笑んで悠也を待つ木田がいた。その姿を見るとまだ少し胸が痛い。想いを断ち切るなんて言っても目に見えるものではないし少なくとも真人は本気で木田に惚れていたのだから、すぐすぐ忘れられる筈がない。
「修ちゃんかっこいいなあ……っじゃなくて今日こそは……」
今までの事を謝ろうと毎朝悠也の家を訪れる真人。
だがどうしても一歩が踏み出せず、いつも壁に張り付いて二人の背中を見送ってばかり。
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