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埃っぽい踊場の空気を一掃する爽やかな風が吹き抜ける。
久しぶりに訪れた屋上は、何も変わらずそこにあった。
廉の言葉通り、愛しい人の姿はそこにはない。
「座ろっか?」
「はい」
姿はないけれどいたるところに木田を感じる。
西側の一角に座り、ぼけーっと校庭を眺めるのが好きだった事。
体育の授業がマラソンの時は必ずここでサボって昼寝していた事。
フェンスにもたれかかり、寂しげに空を見上げていた事。
木田は気の多い男ではあったが情事の相手をここに連れてくる事はなかった。
……僕嬉しかったんだ
人と群れる事を嫌い、真人が来るといつもしかめっ面で帰れと言っていた木田。
だけど本気で追い出す事はなかったから、隣にいる事を許されたんだって、特別なんだって思い嬉しかった。
だから……豊田先輩といるのを見たときは、悔しかった。
……だって修ちゃん笑ってた。
幸せそうな笑顔なんて、真人は見た事がなかったから。
「佐々木君、大丈夫?」
「あ……大丈夫です」
飛んでいた意識を引き戻し廉を見ると、やはりそこには穏やかな笑顔があった。
その笑顔が、幸せそうな木田の笑顔と重なる。
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