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<1. 卒業>
「……ということだから、なんだかんだ問題はあった訳だけど君もひとまず卒業。ハ! この時期が一番疲れんのよね」
リーンは、成績所見の書類を背後の机にバサリと放ると言葉を切った。
目の前には、標準的な学院生服――丈のたっぷりした長袖シャツを細いベルトで絞り、重ねた上着はハイ・クラスの紋入りベスト、そしてゆったりしたズボンに革の靴。それをきちんと着て約束の正午ぴったりに現れたキアノスに、リーンは笑いかけた。
「ありがとうございます。全て、先生のご指導のおかげです」
胸の前で両腕を交差させて完璧な礼をする青年を前に、リーンは再びにんまりと笑った。
先ほどからの面倒くさそうな口調とは裏腹に、嬉しくてたまらないのだ。
膝をつき深々と頭を下げていたキアノスにはその表情は見えていなかったが。
「さて。問題があった、って、過去形で言っちゃったけど、実はまだ大変なのが残ってんのよね。お前に一人前の証をくれてやらなきゃなんない」
クッションの敷き詰められたソファからおもむろに立ち上がり、リーンは爪の長い指を軽く口元に当ててキアノスを見下ろした。
顔を上げたキアノスの表情が、ほんの少し強張った。深い濃青の瞳が、ふっと翳る。
「承知しています。僕の力が、その“色”を定めないほど未熟であることなら……」
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